NTTの株価が安い理由をまとめてみた
NTT(日本電信電話株式会社)は固定電話や光回線を全国で手掛けるほか、傘下に携帯電話キャリア最大手のNTTドコモを有する、日本でトップの通信会社です。
しかし、その株価は意外なくらい安いと言われることがあります。これはなぜでしょうか。
NTT株は「株式分割」をしたから安い
NTTの株が安い理由として、まず2023年7月1日に行った株式分割が挙げられます。
株式分割とは企業が株式の額面を下げるために行う行為で、1つの株を2つ以上の株に分けることを指します。
株式分割を行うと、一株あたりの価格が下がるため、投資家が購入しやすくなります。
株式分割とは?
株式分割について詳しく説明しますね。
株式分割は、一株当たりの価格を下げるために、一つの株を複数の小さな単位に分けることを指します。これは、主に株式の流動性を高めることを目的としています。
ここでの「流動性」とは、株がどれだけ簡単に売買できるかということを意味します。
株価が高額だと、投資家が株を購入するハードルが高くなり、結果として株の売買が活発でなくなる可能性があります。
それに対して株価が低くなれば、多くの投資家が株を手に入れやすくなり、売買の機会が増え、株の流動性が高まります。
株式分割の例
例を用いて、株式分割をさらに詳しく説明します。
例えば、企業Aの株価が1株あたり10,000円で、あなたがその企業の株を100株持っているとします。その時の持ち株の合計価値は、1,000,000円(= 10,000円/株 × 100株)ですね。
ここで企業Aが1株を5つに分割すると発表した場合、株式分割後、あなたは500株の株主となります。ただし、株式分割によってあなたの持ち株の合計価値が増加するわけではありません。
1株あたりの価格が2,000円になるだけで、持ち株の合計価値は変わりません(= 2,000円/株 × 500株 = 1,000,000円)。
株式分割のポイント
株式分割のポイントをまとめると次の通りです。
- 株式分割では、株の数は増えますが、持ち株の合計価値は変わりません。
- 1株あたりの価格が下がり、多くの投資家が投資しやすくなります。
- 株式の流動性が向上し、株式市場が活発化することを期待します。
企業が株式分割を行う主な理由としては、株価を手頃なレベルに保ち、投資を手軽にできるようにすることで新しい投資家を引きつけ、また既存の投資家にもっと投資をしやすくする、といった点が挙げられます。
東証が示す望ましい投資単位の水準は「5万円以上、50万円未満」であり、政府も新NISAなどで投資を後押ししていることから、株式分割の事例はいくつかみられるようになりました。
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NTTの株が安く見えるのは「絶対的な株価」だから
株価は、その見方によって異なる受け取られ方がなされます。ここでは、絶対的な株価と相対的な株価と呼ぶことにします。
株価の絶対値が低いからと言って、それが安いとは限りません。価値や収益性を示す指標(PERなど)を基に相対的な価格を評価することも大切です。
「絶対的な株価」と「相対的な株価」について説明します。
絶対的な株価
絶対的な株価は、単に一株あたりの価格を指します。
株価は市場での需給関係、企業の業績、経済環境など多くの要因によって形成されます。この価格が投資家が実際に支払う金額となります。
例えば、企業Aの株が1株あたり2,000円で取引されているなら、これが「絶対的な株価」です。これはその株を購入するのに必要な金額を単純に表しています。
相対的な株価
相対的な株価は、企業の株価をその企業の業績や財務状態と関連付けて評価する指標です。
一般的な相対評価の指標として、P/Eレシオ(株価収益率)、P/Bレシオ(株価純資産倍率)などがあります。
P/Eレシオ(Price/Earnings Ratio)
P/Eレシオは株価を一株当たり利益(EPS、Earnings Per Share)で割った値です。
この値は投資家が1単位の利益を得るために支払う株価を示し、株の「割高さ」や「割安さ」を判断するための一つの基準となります。
P/Eレシオ=株価/1株当たり利益(EPS)
P/Bレシオ(Price/Book Value Ratio)
P/Bレシオは株価を一株当たり純資産(BPS、Book Value Per Share)で割った値です。
これは株価が企業の純資産(簿価)に対して割高か割安かを示します。
P/Bレシオ=株価/1株当たり純資産(BPS)
絶対的な株価と相対的な株価の重要性
これらの指標は投資家が株を評価し、企業の将来性や市場評価を分析するのに役立ちます。
例えば、P/Eレシオが高ければ投資家は将来の利益成長を強く期待しているとも解釈でき、低ければ株が割安であるとも解釈できます。
ただし、これらの指標もその経済状況や業界の特性により適切なレベルが異なるため、他の企業や業界平均との比較や、歴史的なデータと比較して使うことが一般的です。
絶対的な株価と相対的な株価は、投資判断の根拠として共に重要です。
絶対的な株価が投資の具体的なコストを示す一方で、相対的な株価はそのコストが妥当かどうかの評価や他の投資対象との比較に用いられます。
これはNTTの株価を見るうえでも同様です。
NTTの株価が安く見えるのは「発行済み株式数」が多いから
企業の発行済み株式の総数が多い場合、株価の絶対値が低くなることがあります。
しかし、株式の総数や企業の総資産を考慮すると、市場全体の価値は非常に大きくなることがあります。
つまり企業の株価は、発行済み株式の総数とその企業の市場評価(企業価値)とのバランスで決まります。発行済み株式が多ければ多いほど、1株当たりの価値は小さくなる傾向があります。
発行済み株式数について詳しく解説しますね。
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株価の構成要因
基本的に、企業の株価は次のように表されます。
株価=企業価値/発行済み株式数
ここで「企業価値」とは、投資家が企業に対して持っている期待値や評価の総和と考えることができます。
これは利益の見込み、成長の可能性、リスクなど多岐にわたる要因から形成されます。
そしてこの企業価値を発行済み株式の総数で割ることで、1株当たりの価格が導き出されます。
大量の発行済み株式と株価
もし企業が非常に多くの株式を発行している場合、式にある「発行済み株式数」が大きな値となります。
それにより、企業価値が非常に高くても、この高い企業価値を多くの株式で割ることになるため、1株あたりの価格は低くなります。
逆に、発行済み株式が少なければ、1株あたりの価値は高くなります。
そのため、小さな企業でも発行済み株式が非常に少なければ、株価の絶対値が高くなることもあります。
NTTの発行済み株式数
2023年10月18日現在、NTTの発行済み株式数は以下の通りです。
90,550,316,400株
※出典:Yahoo!ファイナンス https://finance.yahoo.co.jp/quote/9432.T
参考までに、ほかの大手企業と比較してみましょう。
NTTに次ぐ、国内2位の通信会社である「KDDI」の発行済み株式数は、以下の通りです。
2,302,712,308株
※出典:Yahoo!ファイナンス https://finance.yahoo.co.jp/quote/9433.T
オーディオやカーナビゲーションシステムで有名な電機大手「JVCケンウッド」の発行済み株式数は、以下の通りです。
164,000,201株
※出典:Yahoo!ファイナンス https://finance.yahoo.co.jp/quote/6632.T
大手警備会社として知られる「ALSOK」の発行済み株式数は、以下の通りです。
510,200,210株
※出典:Yahoo!ファイナンス https://finance.yahoo.co.jp/quote/2331.T
いかがでしょうか。NTTの発行済み株式数がいかに多いか分かっていただけたと思います。
ただ注意点として、上記の計算は基本的なものであるということが挙げられます。実際の株価はもっと複雑な要因によって影響を受けます。
市場の心理、政策、経済状況、業界の動向など多くの外部要因が株価に影響を与え、これらは常に変動しています。
したがって、投資を行う際は単に1株あたりの価格や企業の規模だけでなく、これら多岐にわたる要因をしっかりと分析し、理解することが重要となります。
まとめ
NTTの株価が安いのは、「株式分割」をしたから、「絶対的な株価」だから、「発行済み株式数」が多いからということが理由として考えられます。
また、ほかにも業績やプレスリリースによる短期的な下落、安定した企業だから、元国有企業だからといった理由も考えられますが、そこまで強い理由にはならないと思います。
これらの要因を総合的に考慮することで、NTTの株価が現在の水準にある理由を理解することができるでしょう。
免責事項
この記事に掲載されている株の情報は、一般的な情報提供を目的としており、特定の株式の購入や売却を推奨するものではありません。株式市場はリスクを伴う投資です。投資判断を行う際には、自身の財務状況、リスク許容度、投資目標に基づいて検討し、必要に応じて専門家の意見を求めることをお勧めします。
この記事に記載されている情報は、筆者や情報提供者の最善の知識と信念に基づいていますが、正確性や完全性を保証するものではありません。株式市場の状況は常に変動し、過去のパフォーマンスは将来の成績を示唆するものではありません。
株式取引においては、慎重なリサーチと情報収集が不可欠です。何らかの投資を行う前に、証券取引所や金融規制当局の規制、税金に関する法律、およびその他の適用される法律に関する情報を確認し、専門家と相談することをお勧めします。
筆者や情報提供者は、本記事に基づいて行われる取引や投資の結果について一切の責任を負いません。株式取引におけるリスクを十分に理解し、自己の判断で行動してください。